1) Introduction to Orofacial Pain 1
P14-17


The Biopsychosocial Mode : Allostasis and the Emotional Motor System 
心身二元論は、体と心(mind/mental)を切り離して考える概念である。
デカルトのこの考え方は1641年に示されたものだが、現在でも医師や患者は、病気や痛みは病気やけがに起因し、それらは検査で検出できるはずだと信じている(13)。
医学のこのような機械的・生物医学的modelは、心や環境からの影響(effects of the mind and society)を過小評価するものである。この考え方では、痛みは組織損傷の結果生じるものだとみなし、もし痛みの原因となる疾患や創傷が発見できなければ、「psychosomaticなものだ」と結論することになる。

Engel(66)は、従来の生物学医学的モデルでは、器質的要因を探すことが医師の責務であり、心理社会的要因により生じる機能不全は医師の守備範囲外のものだとする近視眼的なものであると異議を唱えた。彼は、「痛みを解決するためには、全ての医師は器質的原因を発見し、治療しなければならない」という生物学医学的アプローチを拒否し、biopsychosocial model(生物心理社会モデル)を新たに提唱した。
このモデルでは、生物学的、心理学的、社会学的問題を、ちょうど筋骨格系や心血管系などと同じように全身のシステムの一部とみなし、心と体は切り離して考えられないとみなしている。
痛みは、生物学的、心理学的、社会学的要因のコンビネーションで生じる症状であり、すべての人に継続的に影響を与える。どの痛みも、一つとしてその構成要素が同じ物はない。

このbiopsychosocial modelでは、病因が証明できる「disease」と、体の具合が悪いことを知覚しているのに生物学的なパラメーターが病因を証明できない「illness」を区別している。科学の発達に伴い、心理学的社会的問題が生理学的にに有害な作用を与えることを裏付ける画像技術(67)や生物学的マーカーが発見され続けているので、「disease」の概念を再定義しなければならなくなっている(68,69)。さまざまな体調不良を併発しやすい虐待の犠牲者を特徴づけるCentral sensitization(中枢の過敏化・感作)のメカニズムや神経内分泌系neuroendocrineの変化は、以前は「生物学的原因がない」と考えられていた状態に対するマーカーを科学が明らかにした例である(70,71)。

Allostasisとは、ストレッサーに直面したときに、神経、神経内分泌および免疫メカニズムが生じる適応をいう。Allostatic loadとは、ストレッサーが生み出す、個体がホメオスターシスを維持しようとして生じる生理学的変化である。(Allostatic load=「ストレスにより乱高下する生理学的変化によって、生体が被る緊張」by Carlson)循環器系の疾患や糖尿病の原因となるHPA axis functionや脳のサイトカイン活性における変化はAllostatic loadの一例である(72.73)。Allostasisは議論のある理論であるemotional motor systemと交わるところがある。emotional motor systemの提唱者は、思考と感情は神経内分泌系に仲介されたmotor responseを生み出すと主張している(74,75)。個体が聞いたり、見たり、嗅いだりすると、amygdala(大脳側頭葉の核である扁桃体)や海馬などの大脳辺縁系は一次的感覚刺激を受け取り、10-30ミリセコンドで以前の記憶knowledgeと比較して次の動的行動dynamic behaviorを判断する(44)。自律神経と脳神経の運動行動motor behaviorによる入力の分析とemotional motor systemの促進には、脳の神経科学と内分泌機能が全範囲においてかかわっている(46,76)。

OFPの臨床にはなじみがあるこの2つのシナリオ(allostatic loadとemotional motor system)は、「なぜ社会学的経験が上脊髄の生理と痛みの経験を変化させるのか」についてを説明する。
頸部の疼痛(がんで亡くなった叔父の初期症状と同じ)で目が覚める非常に心配性な患者、または7年前に暴行を受けたときに記憶した同じ臭いでパニック発作が誘発される頭痛患者などについて考えてみよう。これらの患者の症状を説明するためには、急性の生物医学的パラメーターの検索だけでは役に立ない。むしろ原因もわからず治療もできないまま病的な状態が持続することで、病状を悪化させることもある。このような患者こそ、biopsychosocialアプローチによりallostatic loadの上昇を阻止できる一群である。完全な病歴を採取するためには十分な時間をとり、心理社会的問題が生理学的効果と関連していることを説明することで患者が病気の症状をコントロールできるようになるのを援助することができる。

エンゲルによって描かれた3つのシステム(bio/psycho/social)をすべて評価する必要性についての認識は高まっているが(66)、2005年の研究では、これを広く利用することを阻止する障壁が数多くあることが記述されている(77)。この研究は、適切なトレーニングを受けていないとか、金銭的裏付けがないとか、「quick fix」を好む文化的背景などから、医師もレジデントも、心理社会的問題にアプローチすることを避けることを報告している(77)。

The Research Diagnostic Criteria(RDC) for TMDは、患者の状態をよりよく理解するために、生物学的(Axis I)と心理社会的(Axis II)の両面から評価する試みを示している(78)。しかしながら、RDCは抵抗に遭っている なぜならAxis Iでは、関連痛や中枢の過敏化がどう身体症状に関与するのかの説明がうまくできておらず、またAxis IIでは疾患のevidenceがあるにもかかわらず、TMDはpsychosomaticだというように受け取れられてしまうからである。とはいえ、5年のTMD患者のフォローアップの研究では、心理的な評価では異常がない場合は49%で症状が緩和している(79)。残りの51%のうち、疼痛が大幅に改善している。14%は、心理学的な改善は認められるが、身体的症状にはほとんど変化がないものである。改善なしの37%は、心理的にも身体的にも改善がなかったものである。心理的要因が予後に影響するというこのようなデータは、心理社会的パラメーターの生理学について、よりよく焦点を当てられるべきであることを要求している。さもなければ、慢性の口腔顔面痛とそれに伴う状態の管理法に改善が望めないからである。

とはいえ、疾患に対する遺伝的なpredisposing(素因)の研究は精力的に行われている。それ以上ではないかもしれないが、環境的なストレッサーが、遺伝子コードの発現や行動に変化を与えることの重要性を認識することも、同じくらい重要である。
動物モデルでは、双子の個体を一方はより過酷な環境に置いた場合、GABAレセプターのダウンレギュレーションが起こり、locus(アドレナリン)-modulatedの行動変容が生じることが示された(80)。個々の脳は、それぞれの脳が以前にどのような体験をしたか、またどのタイプのallostatic適応が生じたのかによって侵害刺激を全く異なって解釈するということを理解することが重要である。

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Suffering(苦痛)と痛み:併存するcondition


Suffering(ほとんどの医学辞書には載っていない言葉)とPainは異なる。Fordyceは"suffering"は、ネガティブな感情/心理的状態で、侵害刺激への反応としてまたは予期(不安)として生じるのに対し、"pain"は知覚される侵害刺激だと定義している。しかし、sufferingはpainだけを意味するものではなく、sadness、sorrow(悲痛)、またgrief(悲嘆)によって特徴づけられる状態である。強い持続性の疼痛や悲しみ、悲嘆の予期は、sufferingの強度に影響を与える。二次利得などのモラルや社会的前提も、個人がどの程度のsufferingを示すかに影響を与える。しかし、コントロール不能のpainの場合は、大脳辺縁系のanterior cingulated cortexと内分泌系のmodulationを生じさせ(82)、苦しんでいる患者のsufferingを進行中の経験にするかもしれない。

急性疼痛は急激に生じ、短期間で終結する。手術後の疼痛のように、非常に強い痛みであるかもしれないが、痛みの因果関係は明らかであり、原因となった刺激が繰り返されるわけではない。中枢の過敏化が生じる可能性はあるが、その際も創部を保護する目的で生じる。組織は治癒し、疼痛は改善し、中枢の過敏化も消失し、sufferingは短期間で終わる。
急性疼痛と慢性疼痛を区別する要素として、結合組織が治癒するのに必要な3-6ヵ月が示されている。慢性疼痛は、患者の生活の一部となる持続性疼痛である。また、中枢にneuroplastic change(神経可塑性の変化)を引き起こすため医学的治療に抵抗する(83)。慢性疼痛はうつ病などの心理学的症状を引き起こすが、常にそうとは限らない(13)。慢性疼痛患者に起こっているのは、持続性の中枢の過敏化と併存する病的状態の増加である。転換性障害のような状態も存在する可能性があるとはいえ、「ストレッサーが中枢に与える影響」と「消化器・呼吸器・筋骨格系・心血管系・内分泌系・免疫系の変化」に関連性があると示唆するような新しいevidenceが示されており、これらはかつて「身体表現性障害」と呼ばれてきたような状態の定義を変えつつある。(68,84-87)
(転換性障害のような状態=実際には感覚神経にも運動神経にも異常は生じていないにもかかわらず、あたかも身体的な異常が生じているような症状を呈すること)

慢性のnociceptionのように、強度なストレッサーやひどい体験は中枢の過敏化、交感神経のアップレギュレーション、内分泌系の異常を引き起こす。これらの要因は、PTSDや頭痛、TMD、過敏性膀胱炎、逆流性食道炎、ファイブロマイアルジアなどの併存する症状が、慢性疼痛患者に合併しやすいことを説明する(88-90)。

科学が患者が慢性のストレスにさらされることによって中枢処理過程になにが生じるかを明らかにしている以上、臨床医の役割は変わりつつある。生物医学モデル(他覚的に証明できる臨床症状)だけからではなく、なにが生じているのかのwhole storyを理解することが臨床医の義務である。
実際に、われわれの社会では、暴力にさらされている患者は多い。慢性疼痛患者の場合、虐待にさらされている人は、general populationに比べて3倍多い(91)。虐待に関わるタブーや純粋な恐怖から来る抑圧、悲劇的な出来事は、患者の口を閉ざさせるようにしてしまう。臨床医は、中枢の機能不全による激痛や併存する症状は、心理的ストレスの唯一の(心理的ストレスが身体化をおこして生じている)症状であることを理解していなければならない。
これらは多くの場合デリケートな問題であるが、疼痛緩和を得るためには、臨床医は、複雑な心理的病歴を聞き取りそこから手がかりを得ることにきわめて熟練した治療者を同僚として受け入れるためのドアを開けることができなければならない。(心理療法士や精神科医を同僚として治療を行う必要がある。)

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